国内最強の決済サービス「Suica」普及の歴史②
(前編の続き)
ようやくICカードによる自動改札システムの土台を作った、JR東日本の研究チーム。
フィールド試験の結果を受けて1997年5月、社内に「ICカードプロジェクト」が設置。
担当したのは、言い出しっぺの椎橋章夫氏と片方聡氏の2名だけでした。
一般に、鉄道会社は決して「革新的」な組織ではありません。むしろ、決まったことを決まった通りにこなすことが評価される事業です。
JR東日本において、椎橋氏らのICカードプロジェクトは極めて異色であり、実現のためには周到な「根回し」が必要となりました。
まず取り組んだのは、JR東日本の経営陣が納得できる「マスタープラン」を作ること。
時間、労力、費用など、計画の遂行に必要なものを整理しようとしたのです。
JR東日本には「役員FD(フリーディスカッション)」という会議があり、社長はじめ経営幹部が出席。自由にお互いの意見を出し合う場となっているそうです。
椎橋氏らは、この「役員FD」を焦点に定めました。そもそもICカードが何なのか知らない役員もいる中で、巨額な費用を投じてでも取り組む理由を説明しなければならないのです。
実際に出してみると、幹部の意向は「まあ、いいんじゃないか」というまずまず肯定的の感触。一方で、数名は否定定期な幹部もいることがわかりました。
問題となったのは、やはり投資額の大きさと実現性。「そんな巨額な投資をして、混乱が生じたらどうするんだ」というもっともな懸念でした。
プロジェクトとして成功させることはもちろん、誰もが納得できる「費用対効果」を実現するためのビジネスモデルを考え出し、経営陣に示す必要もありました。