パナソニックホールディングス(HD)が、デザインを事業創出やブランド構築に活用する「デザイン経営」に全社を挙げて取り組んでいる。臼井重雄執行役員(デザイン担当)は「創業者が目指した成長メカニズムを現代に取り戻す」として、デザイン思考を長期戦略に反映させる方針だ。
国内外で、デザイナーの担当領域はモノやサービスにとどまらず、経営方針や事業運営にも広がっている。メディアの合同取材に応じた臼井氏の発言から、パナソニック流のデザイン経営をひもとく。
「色や形の話じゃない。経営をドライブするため、競争力を強化するためにデザイン思考を使いたい」
2021年6月、グループの経営トップに就いた楠見雄規社長兼CEOは、従来の枠に捉われない「デザインの越境」を推し進める。「実装できる技術」「儲かるビジネス」の両立だけでなく、「(商品やサービスを)使ってもらえる」という視点を深く追求し、事業部門をコーチングする役割をデザイナーに求める。
パナソニックホールディングスの楠見雄規社長=パナソニックHD
意向は組織体制にも反映されている。臼井氏が同社で初めてデザイナー出身の執行役員となり、全社を統括。家電を担う中核事業会社パナソニックにデザイン本部が置かれ、約400人のデザイナーがグループ各社を跨いで働く。ニューヨークとロンドン、上海、クアラルンプールにも部門拠点がある。
臼井氏は「地球や社会、生活者の視点で考える未来と、既存の商品・事業の延長線上の価値には大きなギャップがある。これを埋めるのがデザイン経営そのものだ」と話す。「競合に勝つためのデザインではなく、どう使われるかを考えることで、シンプルで使いやすい商品も出てきている」
消費者の役に立つという未来を明確に共有できれば、従業員の士気が高まり、社会変化を先回りすることにもつながる。これが収益性や株価の向上にも貢献する好循環を探っているという。