(前回からの続き)
1870年代、国際的な金本位制が確立されたことで、各国には「金の流出を防ぐ」という分かりやすい目標ができました。
金こそが絶対的な価値の源であり、「金さえ備蓄すれば大丈夫」と強く信じたのです。金本位制は、いわば宗教のようなものでした。
金が国外へと流出したら、中央銀行は利率を上げ、それでも止まらなければ、各国の中央銀行が協力したり、大きな民間銀行の助けを借りました。
この時代に起こった危機の1つが、1890年の「ベアリング危機」です。
当時のイギリスでは、ベアリング・ブラザーズというマーチャント・バンクが権勢を振るっていました。
ベアリング家はアルゼンチンで無分別な投資を行っていましたが、同国で1890年に政治革命が起こり、金融パニックを引き起こしたのです。
タイミングは最悪で、1889年にはイングランド銀行の金準備が900万ポンドまで減少していました。倒産を避けるには、ベアリング家だけで最低400万ポンドが必要。
イングランド銀行は、ベアリング家のライバル、ロスチャイルド家に助けを求めます。両社は協力して1500万ポンドを提供。ロシアやフランスからも金を借り、なんとか債権者に負債を返却しました。
ベアリング危機によって、各国の中央銀行は「もっと多くの金準備が必要」と考えます。金への信仰を強めることになりました。
当時の金本位制には、民衆を犠牲にする側面がありました。
金が流出したら、海外から金を引き寄せるために金利を上げ、輸入を減らすために国内経済を縮小します。当然、煽りを受けて失業率が上がるわけですが、それよりも「金準備」の方が重要とされたのです。(本末転倒感がヤバイ)
金本位制は、繁栄の「結果」ではあっても「原因」ではなかったのですが、当時のヨーロッパ各国は、何に代えても金本位制を死守しようとしました。
新興国だったアメリカは、自力で金を流出から守らなければなりませんでした。