今回は『ガリバー』等を運営する中古車業界No.1の「IDOM」(証券コード:7599)についてまとめていきます。
(公式HP)
創業者・羽鳥兼市氏がガリバー(現IDOM)を設立するまでいくつもの試練を乗り越えてきました。
羽鳥氏は福島県須賀川市生まれで、江戸時代から続く理髪店を営む実家で幼少時代を過ごします。
羽鳥氏の父親は再生タイヤ工場、洋服の卸し問屋などいくつもの事業を手がけており、子供の頃から商売を身近に感じていたそうです。
1959年に県立須賀川高校を卒業し、父親が経営していた再生タイヤ工場に入社しました。
しかし、再生タイヤ工場はディーラーの下請けなので利益が出しづらいと考えた羽鳥氏は、自らパトロールして事故車を発見・回収するサービスを始めます。
そのサービスが大ヒットし1966年に羽鳥総業という会社を立ち上げるも、手形詐欺にあってしまい1976年に倒産。
羽鳥氏は3億円の借金を背負ってしまいました。
借金を返済するために、なけなしのお金でボロボロの中古車を仕入れて販売するビジネスを開始。
その事業が軌道に乗ることで3年で借金を返済、月平均50台の中古車を1人で販売していたそうです。
中古車を扱う中で羽鳥氏が感じたことは「中古車業界はイメージが悪い」ということ。
このイメージを払拭したいという思いから、1994年に福島県でガリバーインターナショナル・コーポレーション(現IDOM)を設立します。
2000年に東証二部に上場、2003年には東証一部に市場変更しています。
IDOMは2008/2期をピークに業績が低迷していましたが、2012/2期を境に業績が回復。
2018/2期には2,761億円と過去最高の売上高を更新し、6年間で売上規模は約2倍に拡大しました。
IDOMは中古車の買取・販売を手がけています。
中古車事業のビジネスフローを確認すると、最初に一般消費者の車を査定、買い取り(仕入れ)ます。
買い取った中古車を小売り、中古車業者にオークション形式で販売することでマネタイズしています。
中古車の買取台数が18.6万車を超えるIDOMですが、日本では約7年で新車の資産価値がほぼゼロになると言われています。
在庫を多く抱えるIDOMだからこそ在庫保有は2週間というルールがあり、これは「鉄の掟」とされています。
小売と卸売の販売台数推移を見ていくと、卸売台数が減少傾向にあり18/2期の卸売台数は9.6万台です。
一方、小売の販売台数は右肩上がりに伸びており、18/2期の小売台数は12.5万台にまで増加しています。
中古車業者に向けた卸売から、一般消費者に向けた小売販売に軸足を移していることがわかります。
以前のIDOMは、査定・買取を終えた後にプールセンターで車の在庫管理を行っていました。
プールセンターで管理した車両を中古車事業者に、オークションを通じて販売します。
現在、IDOMはプールセンターを展示場(販売店舗)に置き換えています。
あくまで2週間という在庫期間は変えず、従来のビジネスモデルをベースとして在庫リスクを押さえた小売モデルに移行しました。
小売の販売チャネルは価格や車種に応じて細分化されています。
例えば、高級外車専門の「LIBERALA」ではベンツやBMWといった高価格帯の車両のみを扱っています。
店舗数の推移を見ていくと、右肩上がりに増加しており18/2期は543店舗あります。
FC店舗の数は減少傾向にあり、直営店を中心に店舗数を増やしていることがわかります。
国内市場で卸売販売から小売販売へと重心を移してきたことがわかりました。
では海外市場ではどのような戦略をとっているのでしょうか。
国内外の売上推移を見ていくと、2017/2期の海外売上が前年と比べて2倍以上大きくなっています。
海外売上の内訳を見ると、18/2期の豪州売上は448億円となっており、海外事業売上の96%を占めています。
これは2015年9月にオーストラリアでマルチブランドの新車ディーラーを展開するBuickHoldingsの株式を67%取得し子会社化したためです。
BuicksHoldingsはオーストラリア西部10エリアで、トヨタや日産といった様々なブランドのディーラーを手がけている企業です。
買収前3ヵ年の売上平均は6.3億豪ドル(約571億円)、営業利益は0.2億豪ドル(約17億円)でしたので、IDOMの1/3ほどの規模の企業でした。
力を入れている豪州事業ですが、利益はほとんど出ておらず、最新決算の2Q19の営業利益はマイナス10億円となっています。
2Q19の四半期報告書によると、西オーストラリア地域における新車の市場環境が底打ち状態にあることが要因です。
利益の出ていない豪州事業ですが、オーストラリアの南東部でマルチブランドディーラーを経営しているAWMグループの買収について2018年10月に発表しており、本格的に豪州市場を狙っていることが伺えます。
次にコスト構造と財政状態について見ていきます。
まずはコスト構造からです。
売上原価率は76.1%と比較的高い数字となっています。
販管費率は21.3%、営業利益率は2.4%です。
バランスシートを見ると総資産は1300億円あります。
そのうち現預金は227億円、商品が444億円となっています。
資産の原資となる負債純資産の部を見ていくと、借入金が538億円とバランスシートの41%を占めています。
利益剰余金は363億円です。
キャッシュフロー推移を見ていくと、2018/2期の営業CFは69億円とプラスです。
2018/2期のフリーキャッシュフローは27億円です。
2012年以降の株価上昇が一段落し、現在の時価総額は566.5億円となっています。
現預金227億円と借入金538億円を加味した企業価値(EV)は877.5億円。
年間のフリーキャッシュフロー27億円に対して約33年分の評価を受けています。
IDOMは2019/2期目標として5%の増収を掲げています。
19/2期の売上予想は2900億円と、18/2期から+5%の売上拡大を見込んでいました。
2Q19時点の売上は1440億円あるので、進歩率は49%と概ね予想通りの売上を確保できています。
利益ベースで見ていくと、19/2期の76億円という予測に対して今四半期は5%ほどしか達成できていません。
これは中古車販売の商品設計を大きく変えたことが要因となっています。
IDOMが中古車販売する際、オートローンや自動車保険を車両価格に含めて販売することで付帯収益を得ていました。
その付帯収益分を一部オプション化するという試みを2018年の4月後半から実施。
付帯収益を差し引いた価格で商品を展示するので、車両価格が下がり集客力は増しました。
しかし、この商品設計が現場にうまく浸透しなかったことから成約率が落ちる、粗利率が減少などの問題が起きたようです。
最後にIDOMの注力する小売販売の目標について見ていきます。
2019/2期の小売販売台数は前年から12%増加の14万台数を目指します。
14万台の小売販売を達成するために、店舗数は前年から32増加の491店舗を掲げています。
店舗デザインを一新し、利用者が車両を見やすくなるような展示方法へ移行することで集客力を高めていきます。
小売販売の話とは異なりますが、2016年8月に月額6~8万円で車に乗り放題のサブスクリプションサービス『NOREL』をスタートしています。
(NOREL)
これは月額5万9,800円(税抜)で中古車が乗り放題というサービスです。
月額7万9,800円(税抜)のグレードにするとBMWやMINIといった高級新車の利用も可能になります。
さらに11月、個人間カーシェアサービス『GO2GO』を発表しました。
(GO2GO)
『GO2GO』は「近所のクルマを安心、簡単、遠慮なく使える」ことをコンセプトとしており、2019年4月にサービス開始を予定しています。
マイカー登録から料金の支払までモバイルアプリで完結することができ、利用時間は3時間から。
ガリバー店舗での車両受け渡しも順次可能となり、保険やメンテナンス面でもIDOMがユーザーをサポートします。
若年層を中心に車離れが叫ばれる中で、中古車の売買だけにとどまらないIDOMのサービス展開を今後もチェックしていきたいと思います。
参考資料