今回取り上げるのは、新たに上場する「アイリックコーポレーション」という会社です。
日本初の来店型保険ショップ『保険クリニック』を展開しており、テレビCMで有名な『保険の窓口』の競合です。
創業者の勝本竜二氏は1964年石川県生まれ。
地元の高校を卒業して地元の信用金庫に就職した勝本氏は、得意先を回って預金を集めるという仕事を行なっていました。
得意先の中には大手生命保険会社がありましたが、反対に彼らから生命保険に入るよう執拗に迫られることが多く、保険が嫌いになってしまいました。
23歳になって信用金庫での仕事に限界を感じていた勝本氏は、知人から外資系生保の仕事を紹介されます。
外資系なら何か違うんじゃないかと考え、旧アリコジャパン(現メットライフ アリコ)に転職。
代理店の育成業務に携わり、顧客へのプレゼン方法を代理店に指導。
そこで勝本氏は保険販売の面白さに魅了されますが、自社商品しか扱えないことにもどかしさを覚えます。
26歳(1990年)のとき二人の仲間とともに富裕層向けの保険販売店を立ち上げ、2年目には保険手数料だけで11億円を突破。
ところがバブル崩壊により、翌年には3億円に激減。
さらに、1997年の日産生命保険が破綻したことをきっかけに生命保険7社が相次いで経営破綻。
破綻によって個人の保険金が削減されることを目の当たりにします。
生命保険の個人客に十分な情報が行き届いていないと感じた勝本氏は、改めて「顧客」「保険会社」「代理店」という3社が持続的に共存させる、というビジョンを考え出します。
そこで新会社として1995年に立ち上げたのがアイリックコーポレーションであり、「来店型保険ショップ」という当時では新しい業態です。
それでは、過去6年間の業績を見てみましょう。
売上は2013/6期の16億円から、2018/6期には31億円ほどに伸びています。
経常利益も見ていきます。
2015年に赤字を脱却し、2018年には2.5億円の経常利益を稼いでいます。経常利益率は8%。
今回のエントリでは、新規上場の「アイリックコーポレーション」が打ち立てた事業とはどういうものなのか、掘り下げてみたいと思います。
アイリックコーポレーションが展開している事業は、「保険販売」「ソリューション」「システム」の大きく三つに分類されています。
① 保険販売事業
来店型保険ショップ『保険クリニック』を直営で展開しています。
(保険クリニック)
店舗には保険のコンサルタントが常駐しており、保険商品を選ぶための相談に乗ってくれます。
保険ショップで紹介された保険商品が契約に結び付くと、保険会社からショップに対して販売手数料が支払われるという仕組みです。
これは保険クリニックの店舗数です。
直営店舗数はこの5年で32店舗に達し、ここ5年で2倍に増えています。
②ソリューション事業
直営店舗だけでなくフランチャイズ形式でも『保険クリニック』を展開しており、そちらは「ソリューション事業」として分類されます。
店舗数を見てみると、こちらはほとんど横ばい。
ソリューション事業ではフランチャイズ店舗に対して運営サポートや保険販売に関するノウハウなどを提供し、「初期登録料・基本料金・店舗料金」「ロイヤリティ」の二つが主な収益となります。加盟店に対する研修やノベルティ売上も。
また、ソリューション事業では『保険IQシステム』の外部向けバージョン『ASシステム』『AS-BOX』の販売も行なっています。
これらシステムの利用ID数は4,878に達しており、多くの保険代理店が同じシステムを利用していることが分かります。
③システム事業
三つ目は、連結子会社の(株)インフォディオで展開する「保険IQシステム」その他ソフトウエアの開発を行うセグメントです。
『保険IQシステム』は独自に開発した保険の分析・検索システムであり、これを『保険クリニック』で利用することで明瞭な保険の販売を可能にしています。
(保険IQシステム)
また、加入している保険の内容を手軽に確認・管理できるアプリ「保険フォルダ」も2017年12月にリリース。
(保険フォルダ)
保険証券をカメラで撮影し、保険証券画像と保険情報を一括管理することができます。
セグメントごとの売上
アイリックコーポレーションでは以上三つの事業セグメントを展開していますが、それぞれどのくらいの売上をあげているのでしょうか。
直営店による保険販売売上は20億円ほど。前年から6.4%の増収となっています。
全体の売上が31億円ですので、売上の65%を占めることになります。
また、直営店は32店舗あるので、1店舗あたり年間6250万円ほど売り上げていることがわかります。
一方のソリューション事業は売上9億円で、2.3%の増収。成長はかなり地味ですね。
三つ目のセグメントであるシステム事業売上は111%の増収となっており、成長率は最も大きくなっています。
システム事業を行う子会社のインフォディオでは、外部向けの受託開発なども手がけています。
セグメントごとの営業利益も見てみましょう。
保険販売(直営)が3.6億円、ソリューション事業(FC)が3億円ほどを稼いでおり、利益ベースではかなり近い金額です。
直営の営業利益率は18%程度ですが、FC向けだと利益率33%とさらに高いことが分かります。
さて、ここからはアイリックコーポレーションの一番の特徴である『保険IQシステム』について詳しく見てみましょう。
『保険IQシステム』はアイリックコーポレーションの『保険クリニック』店舗で実際に使われている保険分析・検索システム。
(保険IQシステム)
生命保険の保障内容をビジュアライズしてシートにまとめることができ、大きく「分析機能」と「検索機能」の2つの機能を有しています。
①分析機能
すでに加入中の保険証券から必要なデータを入力することで、保険の保障内容をわかりやすく図示した分析シートを簡単に作成することができます。
(保険IQシステム)
出力される分析シートは次のような感じになります。
グラフによる視覚化では禁忌とされる「3Dグラフ」を駆使して保障内容をビジュアライズしています。
「なにが」「いつまで」「いくら」ついているのかというポイントをまとめ、 保障内容とともに保険料がどう変わるかについても分かりやすく図示してくれるとのこと。
②比較・検索機能
もう一つの比較・検索機能は、「生年月日」「性別」だけで各社の保険商品の検索ができるというもの。
各種条件や特約など、必要な保障に応じた検索もできます。
保険クリニックオリジナルの「比較表」で、1枚の比較表に各社の商品を同一フォーマット化。
わかりにくかった各社の違いが一目でわかります。
更に、選んだ商品をまとめてグラフ化することにより、一目で現在加入中の保障と比較可能になります。
以上のようなシステムによる効率化と、リアル店舗による直接コミュニケーションを組み合わせることによって新たなサービスを可能にしたのがアイリックコーポレーションです。
次に、アイリックコーポレーションの財政状態についてバランスシートから確認します。
総資産は21億円あり、そのうち現預金9.4億円、バランスシートの45%を占めています。
利益剰余金は4.4億円、資本金と資本剰余金の合計が12.7億円あります。
キャッシュフロー推移も見ていきます。
営業キャッシュフローはすでにプラスで、2018年6月期には1.97億円ほど稼いでいます。
財務キャッシュフローはマイナス4000万円、投資キャッシュフローはマイナス1.8億円となっています。
金融庁のEDINETによると、アイリックコーポレーションの募集発行価額は1410円。
そこに上場発行済株式総数404.6万をかけると、上場時の想定時価総額は57億円ほどということになります。
現預金9.4億円を加味すると、企業価値は47.6億円となります。
業界では先陣を切ったアイリックコーポレーションですが、事業規模では業界3位に甘んじています。
店舗数のわりに売上(営業収益)規模が小さい理由としては、「フランチャイズ店の割合が大きい」ということが考えられます。
業界2位の保険見直し本舗(ニュートン・フィナンシャルHD)は、2018年1月に同じく来店型保険ショップを展開していた「みつばち保険」を買収するなど、再編も起こっています。
業界4位のイオン保険サービスは全国のイオン店舗に保険ショップを展開するという大きな強みがあります。
そんな中で「保険クリニック」がウリとしているのは『保険IQシステム』によるコンサルティング能力の高さです。
実際に、『保険IQシステム』の他社向けシステムである「AS-BOX」は同業の「みつばち保険」全店で導入されています。
他のチェーンが店舗数の拡大を優先しているため、現時点では出遅れているアイリックコーポレーションですが、創業者の勝本氏は「いずれ淘汰が進むはず」と発言しています。
急成長「保険ショップ」は、いずれ淘汰の時代(2013年)
この記事からすでに5年が経過していますが、今後「保険ショップ」というジャンルがどうなっていくのか注目していきたいと思います。