1991年創業!通信と人材など多方面でフィリピンと日本の橋渡しを行う「アイ・ピー・エス」が新規上場
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今回は、新規上場が発表された「アイ・ピー・エス(4590)」についてまとめたいと思います。

会社ホームページ

1991年10月に海外人材を日本に紹介することを目的に設立。

当初より国際電話の代理店事業をスタートし、1992年2月には国際デジタル通信株式会社(現・ソフトバンク)の代理店に。

1996年5月には在日フィリピン人を対象としたタガログ新聞「ピノイ・ガゼット」を創刊。


2005年3月には在日フィリピン人向け有料衛星放送サービス「アクセスTV」を開始。

2010年には品川美容整形外科との合弁会社「Shinagawa Lasik & Aesthetics Center Corporation」をフィリピンに設立。

2012年9月にはフィリピンと香港・北米を結ぶ国際通信回線、在日フィリピン人向けインターネット放送コンテンツ配信サービス「VOX TV」の提供を開始。


このように、フィリピンと日本をつなぐ事業を数多く展開してきたようです。

過去7年間の業績推移を見てみましょう。

2013年3月期には売上22億円、経常赤字1.3億円と落ち込みましたが、その後は業績を拡大し、直近では売上53億円、経常利益8億円に達しています。


今回のエントリでは、フィリピンを国内外とつないできたアイ・ピー・エスの事業と決算数値について詳しく見てみたいと思います。


アイ・ピー・エスの事業内容

アイ・ピー・エスの事業は大きく4つに分類されます。

① 海外通信事業

一つめは、フィリピンと北米、香港などとつなぐ国際通信回線を提供する海外通信事業です。

CATV(ケーブルテレビ)事業者などのインターネット接続事業者が対象。

具体的なグループ企業は「InfiniVAN, Inc.」と「KEYSQUARE, Inc.」の二つです。


フィリピンでは、スマホやOTT(Over the top:NetflixやHuluなどの動画ストリーミング)が普及したことにより、CATVの有料視聴者数が伸び悩んでいます。

このため、CATV事業者の多くはインターネット接続(ISP)事業をおもな収益源とするケースが多いとのこと。


アイ・ピー・エスは、フィリピンと香港、シンガポール、アメリカ、日本を結ぶ国際通信回線(海底ケーブル)を利用権(IRU:Indefeasible Right of Use)を取得、もしくは借りています。

フィリピン・マニラ首都圏地域から相手国側の陸上回線とつなぐことで、フィリピンとの間で高速データ通信回線を用意。

これをCATV事業者が取得できる小口容量(10GBの回線を1Gや155MBなどに分割)し、CATV事業者に対して提供しているとのこと。

② 国内通信事業

二つめの国内通信事業では、電話サービスを提供するほか、コールセンター事業者に対し、コールセンターシステムも提供しています。

アイ・ピー・エスは、電気通信事業の自由化が進む中で1992年に、国際電話事業を展開していた国際デジタル通信(現・ソフトバンク)の代理店となりました。

1990年代後半、個人向け国際電話サービスがプリペイドカードによって提供されるようになると、国内外の通信事業者の電話サービスを仕入れ、プリペイドカードを発行して提供。

しかし、仕入れて販売するというモデルでは当然、通信事業者よりも高いコストで回線を仕入れることになります。

そんな中、2002年に旧カナダ国営電話会社のテレグローブ社が破綻し、その日本法人「テレグローブ・ジャパン」が日本から撤退することに決まったため、アイ・ピー・エスが買収。

これにより、第1種通信事業者として事業を展開できるようになりました。


現在は、国内・国際の電話サービスを「在留外国人」「MVNO事業者」「コールセンター事業者」に提供。

③ 在留フィリピン人関連事業

三つめは、日本に在留するフィリピン人をターゲットとした事業で、さらに「人材関連」「顧客開拓・利用促進」の二つの事業に分かれます。どちらも「KEYSQUARE, Inc.」で展開。

人材関連事業では、在留フィリピン人の人材派遣や紹介、求人広告の掲載を行なっているほか、自社媒体としてインターネットによる放送コンテンツも配信。

在留フィリピン人の活躍の場として、介護分野に注目し、訪問介護員2級の講座「Tokyo Caregiver Academy(現在は休講)」を開設し、それを終了した在留フィリピン人5,000名以上を介護施設に紹介。

近年は、ホテルや保育所など、介護以外の分野にも人材派遣・紹介を行なっています。


顧客開拓・利用促進事業では、在留外国人に対して携帯電話や海外送金サービスなどの販売促進を行なっています。

④ 医療・美容事業

品川美容整形外科との合弁で立ち上げた「Shinagawa Lasik & Aesthetics Center Corporation」が対応します。

レーシック手術(眼科)や美容皮膚科、美容外科などの科目で診療を行うほか、化粧品の販売も行なっています。


4つの事業の売上推移を見てみましょう。

「在留フィリピン人関連事業」を除いた三つの事業が拡大しています。

最も大きいのは国内通信事業で、27億4283万円の売上。

海外通信事業は16億円、医療・美容事業は5億8520万円、在留フィリピン人関連事業は4億円の売上をあげています。

国内通信事業の売上27億円のうち、10億円はNTTドコモに対する売上。海外通信事業16億円のうち、8億円は「Sky Cable Corporation」に対する売上です。


セグメント利益も見てみます。

利益ベースでは、海外通信事業が一番の稼ぎ頭で、4億6,034万円の利益を稼いでいます。

国内通信事業も2億5,567万円、医療・美容事業も1億6,047万円と急拡大しています。


セグメント利益率も見てみます。

海外通信事業の利益率は30%前後と非常に高くなっています。医療・美容事業も27%と高いですね。

国内通信事業は改善しているものの9.3%、在留フィリピン人関連事業は6.5%の利益率となっています。


財政状態

続いて、アイ・ピー・エスの財政状態もチェックしてみます。

総資産は42億円あり、そのうち現預金は14億円ほど。

バランスシートの反対側も見てみましょう。

長期借入金が11億6,583万円と、資金源としては最も大きくなっていることがわかります。

資本金と資本剰余金の合計は7億円ほど。

利益剰余金は2018年3月期に急拡大し、5.4億円を超えています。


営業キャッシュフローは毎年8億円前後と、見かけ上の利益以上にキャッシュを生み出しています。

どうして見かけ上の利益よりも営業キャッシュフローが潤沢なのでしょうか?

もっとも顕著な要因は、減価償却費が2億円以上と大きいことです。

通信事業ということで、毎年2億円から3億円ほどの設備投資を行なっています。

設備投資は一発で費用計上することはできず、その後何年もかけて償却しなくてはなりません。

償却費は実際に現金流出を伴うわけではないため、営業キャッシュフロー上は足し戻されることになり、利益額と比べて多くなっていたということになります。

営業キャッシュフローから固定資産への投資額を引いた「フリーキャッシュフロー(FCF)」は、この3年間綺麗に増加しています。

直近では5億円をこえるキャッシュを稼ぎ出したことになります。


今後の展望

創業から27年が経過したということで、新規上場企業としては老舗と言えるアイ・ピー・エスですが、今後はどんな方向性を目指しているのでしょうか。

上場が発表されたばかりということであまり資料はありませんが、報告書に記載されたことがらをまとめてみます。


まず、大きな戦略としては「IoTによるフィリピンの生産性向上のための基盤づくり」をかかげています。

フィリピンは平均年齢が24歳と非常に若く、新たなテクノロジーが普及するのに適した社会であるとのこと。

こうした利点を生かすため、アイ・ピー・エスがフィリピンにおけるインターネットの地盤づくりとIoTを導入する情報通信商社になる、というのが大きなビジョンです。


また、在留フィリピン人関連事業では前述のように、日本に住むフィリピン人が活躍できる場として介護業界に注目し、多くの介護施設と在留フィリピン人との橋渡しを行っています。

少子高齢化が進む日本社会において、介護業界は成長が期待できる数少ない産業の一つですし、あらゆる業界で若い人材が不足する傾向が加速します。

今後は、在留フィリピン人や介護業界に限定しない人材サービスを展開していき、「面接件数保証型求人広告サービス」という新たな人材サービスも展開する予定とのこと。


フィリピンのGDPは3049億ドルと、日本(4.9兆ドル)と比べるとかなり小さいものの、人口は1億人をこえており、しかも非常に若いという点が期待されます。

また、アジア圏では極めて珍しく、英語話者が極めて多いことも特徴。

社会全体がまだまだ貧しいという面もありますが、中長期的に見ると、フィリピンが今よりも発展していく可能性が高いというのは誰もが認めるところだと思います。


その中で極めて有利なポジションを取っているのがアイ・ピー・エスと言う会社。

ビジネス面でも極めて堅牢なモデルに見えますし、今後の成長がとても楽しみです。