
今回ご紹介するのは、STATION Aiというスタートアップ向け施設だ。ソフトバンクの子会社で、七階建ての巨大な建物が丸ごとオープンイノベーションのために作られた贅沢な施設である。
STATION Aiは名古屋にあり、日本を代表する大企業が入居し、スタートアップとの出会いを求めている。東京をはじめ、地域を問わずスタートアップに利用してもらいたいということで、今回ストレイナーに取材の声がかかった。
STATION Aiは、愛知県が総工費150億円超を投じた日本最大級のオープンイノベーション施設。ソフトバンクが愛知県のプロジェクトに応札し、100%子会社のSTATION Ai(株)が運営する。
2022年4月にはPRE-STATION Aiとしてスタートアップ支援を開始。入居する企業を集め、事業相談、人材採用支援などを受け付けた。昨年10月にはグランドオープンを果たし、500社超のスタートアップ企業と200社超のパートナー企業(大企業を中心に銀行、自治体、大学、中堅中小企業など)が集う。
STATION Ai
スタートアップ企業の属性は、愛知県産業と親和性の高いB2BやSaaSが多い。本社所在地が最も多いのは東京都(39%)だ。次に多いのが愛知県(32%)で、その他都道府県(22%)や海外(7%)からのスタートアップもいる。
パートナー企業には、トヨタグループを筆頭として、誰もが知るような大企業の名前が連なる。どの会社もオープンイノベーションを本気で目指し、有償の会員として入居している。スタートアップにとってみれば、最高の潜在顧客・資本提携先と同じ空間にオフィスを構えられるわけだ。
名だたるパートナー企業たち
今回の取材では、パートナー企業、スタートアップをそれぞれ担当する髙間、片岡の両氏に施設を案内してもらった。ともにソフトバンクから志願して出向した同期社員であり、各企業の招致や企業同士をつなぐハブとしての役割も担う。
各階はスロープでも行き来できる
STATION Aiには6名のコミュニティマネージャーが在籍。大企業や中堅中小企業を中心に様々なパートナー企業とのマッチング等を相談できる。週次でのカフェ会をはじめ、毎日複数のイベントを開催。年間では800件にものぼるという。
7階ある建物のうち、3階から6階までが会員専用ゾーン。スタートアップや大企業が入居し、オフィスフロアや会議室として展開する。1階2階にはイベントスペースやコンビニ、託児施設、飲食スペース。7階には宿泊施設やルーフトップバー、フィットネス施設もある。
一般開放ゾーンでは、スタートアップのみならず学生や近隣住民の方々も利用している。各階はスロープでつながれ、踊り場の壁面にはアート作品が並ぶ。あたかも美術館内を散歩しているかのようにも感じられる、デザイン性の高い空間が印象的だ。
建物内に泊まることも可能
最上階の宿泊施設では、スタートアップ企業であるSQUEEZE社のホテル運営ソリューションを採用。フィットネス設備もOptFitの『GymDX』を活用し、無人運営で月2,000円という低価格を可能にした。6階にはソフトバンクのオープンイノベーション拠点がおかれ、スタートアップとの連携企画を検討中だ。
各階を歩きまわるだけで、日本を代表する企業がそこかしこに入居していることに気づく。その間を縫うようにスタートアップ企業も部屋やテーブルを借りており、毎日働いているだけで「顔馴染み」が増えそうだ。
スタートアップ向けの会員区分は大きく二つある。
一つはSTATION Aiに入居し、現地で活動する「オフィス会員」。個室やオープンスペースにおける固定席、フリーアドレス席もある。個室は4名部屋で12.5万円からと、東京で同等の施設を利用することを考えると非常に安い。コワーキング席なら1.5万円での利用が可能だ。
ちなみにスタートアップ企業には、愛知県の半額補助が適用される。上記は半額補助後の金額となる。
テックラボにはハードウェア作りの機器がずらり
ものづくりスタートアップ向けには「テックラボ」もある。機材や工具の貸し出し、技術コンサル、作業スペースを提供。試作品の製造や評価、相談を行うにはうってつけだ。金属加工から電子回路基板の製作などをカバーし、ロボットやIoT機器の試作も行える。
オンラインでコミュニティに参加する「リモート会員」もある。登録は無料で行えるが、マッチング支援などのオフィス会員向けサービスは有償オプションとして提供される。
全体を通して、筆者は「BtoBを扱うスタートアップなら、入って損はないのでは」と感じた。営業拠点として考えれば、一席15,000円という価格は極めてリーズナブル。一部屋あたりの価格も安い。実際にSTATION Aiには、BtoBの有名スタートアップの顔ぶれもあった。
極端な話、特に事業テーマが決まっていないスタートアップでも入居する価値はありそうだ。リモート会員なら費用はその都度で済む。先に潜在顧客を見つけて課題を把握し、製品開発に臨むというのが所謂リーン・スタートアップの王道アプローチである。
STATION Aiの所在地は、JR鶴舞駅から徒歩6分。名古屋駅から17分、東京駅から2時間程度で行くことができる。ちなみにJR鶴舞駅は、JR東海との調整協力を得て「STATION Ai前駅」という副駅名も付いている。
完全に偶然ながら、当社ストレイナーも名古屋企業のエイチームへとグループ入りした。東京・名古屋を行き来して感じるのは、とにかく「近い」ということだ。新幹線『のぞみ』なら1時間半、品川からなら「二駅」だ。にも関わらず、東京と名古屋のスタートアップエコシステムはほとんど分断しているようにも感じる。
ちなみに、米国の「シリコンバレー」は一般にサンフランシスコからサンノゼにかけての一帯を指す。巨大な一つの産業エコシステムとして機能していることが知られているが、端から端まで行こうとしたら、車で一時間半はかかる。
東京にはスタートアップ人材が集中し、多くの資金も集まる。しかし、解決すべき問題は、全国各地に広がる。STATION Aiは、一つの巨大なオープンイノベーション拠点を通じて企業を集めることで、スタートアップが関係者にアクセスしやすくする。
事業テーマに迷っている、顧客や提携先を探しているなど。あらゆるスタートアップがSTATION Aiを訪れ、新たな化学反応が生まれることになれば、筆者としては嬉しいばかりである。ご関心のある方は、次のリンクから同社の門を叩いてみて欲しい。