宿泊施設向けのAIチャットボットなどを手がけるトリプラ(tripla)が右肩上がりの成長を続けている。
トリプラは2015年に設立。上場企業としては比較的新しい会社だ。当初の社名は「umami」で、主に飲食店向けインバウンド対策アプリを開発していた。翌年には外国人向け予約アプリ「tripla」をリリース。2017年には社名も「tripla」に変えた。
2024年10月期の売上予想は18.4億円、営業利益予想は2.4億円を見込む。今回の記事では、トリプラのビジネスモデルを紹介した上で、同社の成長戦略について紹介する。
トリプラが提供する製品ラインナップの中心にあるのが『tripla Book』だ。2019年7月に開始した宿泊施設向けのクラウド型予約システム。特徴的なのは、公式サイト上での予約が可能となる点だ。
宿泊施設の公式サイトにソースコード(JavaScript)を埋め込むことにより、自社予約を簡単に実装できる。エンドユーザーが予約にかける時間を可能な限り短くするよう機能的なデザインを考慮し、可能な限り離脱を抑えるのが狙いだ。
tripla
予約機能はシンプルそのものだ。導入先の一つであるグランベルホテルの場合を見ると、チェックイン・チェックアウト日を選んで利用する人数を指定。プランや部屋を絞り込んだら、 そのまま予約に進める。Booking.comなどを使ったことがある方にとっては慣れ親しんだフローである。
料金体系としては、部屋数に応じた月額の基本料金と従量料金がある。従量料金は『tripla Book』を通じて宿泊した部屋数が一定の値(閾値)を超えた場合に発生。閾値の設定は、原則として宿泊施設が従前に利用していた他社予約エンジンによる過去一年間の月ごとの宿泊実績(部屋数)とされる。
宿泊施設側にとっては、月額の基本料金が他社予約エンジンと比べてリーズナブルなら、それだけで利用する理由になる。『tripla Book』を使うことで予約件数が増えれば、従量料金を支払う理由としても十分だ。月額の基本料金は99件までは1万円で、100ごとに増えていく。
一見シンプルに見える『tripla Book』だが、その裏側では次のような機能も兼ね備えている。
例えば、「ベストレート機能」。宿泊施設の公式サイトに掲載する宿泊料金を、OTA(オンライン旅行代理店)が掲示する価格と比べ、自動的に値引きする。OTA経由での予約だと一定の手数料がかかってしまうため、多少割り引いても自社予約の方が収益性は高くなる。
大手チャネルマネージャーとの連携も、宿泊施設から見ると嬉しいポイントだ。宿泊施設のプラン情報、部屋在庫の情報はPMS(Property Management System)によって管理されていることが多い。PMSとOTA、予約エンジンを連携するために使われるのがチャネルマネージャーだ。
Finboard
予約エンジンを拡販する上で、チャネルマネージャーとの連携はもはや必須だ。トリプラは2018年5月に「手間いらず」と連携。「TLリンカーン」「ねっぱん」「らく通with」との連携も2020年1月に完了した。宿泊予約サイトコントローラー大手4社と連携したわけである。
OTAには集客力がある一方、サイトによっては氏名と電話番号以外のユーザー情報が施設に蓄積できない。『tripla Book』を使って自社サイト上での予約を受け付ければ、ユーザーの情報を自社で取得し活用できる。宿泊施設がリピート顧客を獲得するために必須の点である。
蓄積した顧客データの活用を支援するソリューションが『tripla Connect』だ。宿泊施設向けに特化したCRM、MAツールであり、ユーザーをセグメントに分けて可視化する。
会員登録日から結婚記念日、ペットの有無といった会員データ、利用回数などの予約データ、性別・年代・年収などのデモグラデータまでがセグメント化可能。セグメントごとにマーケティング施策を実施することで、自社予約をさらに促進できる。
AIを活用した最適プランのレコメンドにも対応する。ビジネス利用が主目的のユーザーならシングルルーム、家族利用ならファミリールームをオススメするといった形だ。メールマガジンの配信に加えて『tripla Bot』上で吹き出しを表示するプロモーションも可能である。
tripla
『tripla Bot』は、宿泊施設の予約サイト上にチャットボットを表示させ、ユーザーからの質問にAIが回答するサービス。電話対応などの人的リソースを減らすことができる。Web上だけでなく、LINEへの連携も可能だ。
宿泊施設から事前にヒアリングを行い、FAQに登録することで回答精度を高める仕組み。加えて導入後、ユーザーから問い合わせがきた場合にそれをAIに学習させることで継続的に精度を向上。AI回答率は95%以上にのぼる。
契約するプランによっては、AIが回答できない場合にトリプラの人力オペレーターが答えるハイブリッド方式を採用。チャット上で必要な情報を入力することで、そのまま宿泊予約を行うことも可能だ。フルサービスプランの基本料金は月額25,000円。リクエスト数が100件増えるごとに25,000円が追加される。
直近ではChatGPTとも連携することで、より自然な会話を実現。独自に集積してきた過去の問い合わせデータ、会話データを認識させることで、回答精度と速度の向上に寄与しているという。
2023年の後半から本格化したのが海外企業のM&Aだ。
一社目に買収したのがシンガポールのBook&Link社。日本政策投資銀行とともに6.8万ドル相当を投じ、トリプラが53%を取得した。ホスピタリティ業界に長年従事する同社顧問(2023年5月〜)エフレイム・スピロ氏による紹介で、インドネシアやフィリピンでの事業展開を協議した。
Book&Linkではトリプラと同様、チャネルマネージャー『ChannelKu』を中心とした幅広いITサービスを展開。無償提供の予約エンジン『BookingKu』もある。買収完了とともに、トリプラグループ傘下の導入施設数は5,490件に倍増した。
2023年末には台湾のSurehigh社を買収。やはりチャネルマネージャー『HOTEL NABE』、予約エンジン『EZ HOTEL』を手がけている。HOTEL NABEの導入施設数は832件、EZ HOTELは726施設だった。
2024年初めにはシンガポールのEndurance社を買収。タイやインドネシアで展開するほか、エジプトなどの宿泊施設も対象としている会社だ。2023年末時点での導入施設数は157件だった。一連の買収によって、トリプラグループ傘下の導入施設数は7,000件を超える。
トリプラはベンチャー企業として、非常に多角的な展開を進めている。先述した海外M&Aもそうだが、『tripla』自体のサービスも非常に多様である。
例えば、2013年11月にリブランディングした『tripla Boost』(従前は『tripla Agent』)。リスティング広告、SNS広告に加えてトリバゴなどのメタサーチにも対応する広告運用代行サービスである。
キャンセル料の請求が簡単になる『tripla Pay』もある。利用料は手数料のみのため、導入ハードルがなし。新たな端末の購入も不要だ。分析ダッシュボードを提供する『tripla Analytics』、ノーコードで公式サイトを作れる『tripla Page』など、枚挙に暇がない。
この数十年で旅行予約のオンライン化が進んだが、予約の大半(85%)は旅行代理店や予約サイト経由などの間接的なもの。トリプラが掲げるのは、直接予約を85%に逆転させる未来だ。
公式サイト経由での売上を最大化できれば、宿泊施設にとっての集客手数料は減少する。浮いた分を自社広告に投資できれば、長期的なブランド確立にも寄与する。この転換を後押ししながら収益機会を拾っていくのが、トリプラの戦略と言える。
関連記事