2022年の波乱相場で比較的堅調だったのが、米国のカフェチェーン「スターバックス」だ。6月まで軟調だった株価は、やがて復調。足元では時価総額1,200億ドルを取り戻した。
もっとも、内実は安穏としたものではない。コロナ禍で損益に影響が出た上、労組組成運動にも火がついた。ほどなくして実質的創業者ハワード・シュルツが暫定CEOに復帰し、組織の立て直しに尽力した。
昨年開かれたインベスターデイでは、コーヒーテイスティングの場を設けるなど、同社ならではの形で投資家向けにプレゼン。新CEOとなるラクスマン・ナラシンハン(Laxman Narasimhan)も、ここで紹介されている。
全体335分ものイベントで見えてきたのは、スターバックスが対峙する市場環境の重大な変化だ。今回は、米国のカフェチェーン「スターバックス」が取っている打ち手の数々をストーリー立ててご紹介する。
同社が「サードプレイス」というコンセプトを掲げ、来客との関係性を重視することは広く知られる。驚くことに、スターバックスは上場(1992年)から2008年まで190か月連続で既存店売上の前年比拡大を続けた。
記録が途絶えたのは金融危機によるが、苦境に瀕して成長の芽も生まれた。その代表が「リワード会員」である。何度も使うと特典がもらえるもので、リピート顧客の定着が狙いだ。この施策は見事に当たり、リワード会員は世界6,000万人に拡大。米国だけでも3,000万人に迫る。
リワード会員サービスは、「モバイルオーダー&ペイ」の土台にもなった。アプリ内にお金をチャージして、そのまま注文に使える。米国直営店ではリワード会員からの売上が半分を超えるなど、文字通り事業の屋台骨になっている。
2022年にハワード・シュルツが暫定CEOに復帰してから、彼はスターバックスという組織の「再発明」に取り組んでいた。何(What)をするかは変わらないが、どうやるか(How)は変えなくてはならない。これが、今の同社を取り巻くキーワードだ。
9月のイベントによると、スターバックスの売上は50%がドライブスルー、25%がモバイルオーダー&ペイから来ている。デリバリーも前年比20%で拡大するなど、需要の変化には対応できていると言える。
米国では店舗ポートフォリオの40%をドライブスルー対応店が占め、収益性も高い。流石に日本はそこまで行っていないが、2022年は販売の15%超をドライブスルーが占めるなど(2019年は9%)、着実な変化が起こっている。
大きな理由の一つが、採用環境の変化だ。パンデミックを境に、店舗スタッフの採用は一気に難しくなった。三年前に飲食・小売業で働いていた人たちのうち、実に半数以上は同セクターで働いておらず、戻る見込みもない。労働参加率は歴史的にみても異常に低い水準だと言われる。