『孫正義300年王国への野望』の感想
ソフトバンクグループ

孫正義300年王国への野望」を読んだ。ソフトバンクの創業者・孫正義氏の経営者としての人生を詳細に振り返る内容だ。


彼について語られた書籍はすでに多く存在するため、どこかで聞いた話も多いが、エピソードの多さと細かさ的にもほかにない一冊なのではないかと思う。


この本の中で、特に印象に残ったところを3つだけピックアップしてみたい。


1. 「やるならとことんやる」という考え方

「どうせやるなら中途半端なことはせず、徹底してプラットフォーマーの地位を狙う」という姿勢。

ヤフージャパンの副社長兼COOの川邊健太郎氏がヤフーグルメの話をしていたとき、どうしても『食べログ』や『ぐるなび』には勝てなかった。その問題を孫さんに相談したところ、次のような会話になったそうだ。

(以下抜粋)

川「ヤフーグルメは万年3位で、『食べログ』と『ぐるなび』にはどうしても追いつけないでいます。やはりどちらかを買収する必要があるかもしれません」

孫「お前、カードゲームやるか?」

川「は?まあ、わかりますけど、それが何か」

孫「ほら、ポーカーでもそうじゃん。ツーペアよりフォーカードの方が強いだろ。そしたら絶対に勝てるだろ」

川「そりゃそうですけど」

孫「だから、そういう時はどっちか、じゃなくてどっちも買収するんだ。最初からそのためにどうすればいいか考えるんだ」

(抜粋ここまで)

また、孫流の思考法について聞いた時には、

(以下抜粋)

孫「今、ヤフーで一番うまくいっている事業はなんだ」

川「そりゃ、ヤフオクですかね。利益率で考えると一番いいですね」

孫「そうか。じゃ、ヤフオクはどんなことをやられたら崩壊するんだ

川「えっ、ヤフオクが負けるシナリオですか?」

孫「そうだ、それを考えろ。そして相手より先にそれをやれ。これをやられたらヤバい、というアイデアを徹底的に洗い出せ。ひとつじゃない。思いつく限りひたすら徹底的に、だ。そして先手を打て。俺はいつもそんなふうに考えるんだ」


アイデアでも実戦でも、「量によって質に転化する」という孫さんの基本姿勢が伺える。

2. アリババのジャック・マーの話

孫さんの話ではないし、書籍の本筋とも違うが、とても印象に残った。またヤフーの川邊氏が出てくる。


2014年11月、孫さんに連れられてアリババ本社を訪れた川邊氏はジャック・マーと会談 する。

ヤフーショッピングでの 無料作戦の成果をジャック・マーに誇らしげに「売上高が数 千億円規模になりました」と言うと、ジャック・マーは首をかしげるようにして「それ って1日あたりの話かい?」と返してきたそうだ。言葉に詰まると、ジャック・マーはさらに「それじゃ、1週間?それとも1カ月?」とたたみかけてきて、川邊氏は目を伏せながら「いや、1年です」と答える今年かできなかったそうだ。

「中国企業の規模は桁違いである」ということがまざまざと感じさせられる。


3. 孫正義氏の弱気な一面

孫さんは25歳のとき、慢性肝炎を患い「あと五年しか生きられない」と医師から告げられた。これ自体はよく知られた話ではあるが、何度聞いても壮絶な話だ。

25歳というのは、普通の大卒であればようやく仕事が板についてくるか、というタイミングである。その頃、孫正義氏は大病にかかり大変な思いをしていたのだなと思うと、背負っているものが常人とは違いすぎると思わされる。病室で、さすがの孫さんも泣いてばかりいたそうだ。

また、「稲盛和夫との交渉に押し負け、仲間に『ねえ大久保さん、今ならやめてもいいよ』と言う」「市場に嫌気がさして真剣に株式を全部買い取って非上場化することを検討した」「買収したスプリントがうまく行かず、本気で売却に向けて動いた」などなど、強気一辺倒に見える孫さんも時には弱気になることがあったのだなと知ることができた。