昨日に引き続き、アメリカで新規上場するテクノロジー企業を取り上げます。
クラウド・セキュリティに関する事業を展開する「Zscaler」という会社です。
クラウドが普及する以前の時代では、コーポレート・セキュリティを担保する主な方法は社内ネットワークを隔離することでした。
しかし、インターネットが進化し、クラウドサービスが登場すると、外部のシステムと連携する必要が強まります。
そのため、ネットワークの囲いに「ゲートウェイ」という通り道を用意し、それによって外部システムと通信します。
しかし、クラウドサービスはますます増える一方で、会社ネットワーク内外のやりとりはどんどん増加し、管理が大変になります。
「社内ネットワークを完全に囲うこと」を前提に設計したセキュリティ・システムでは、現在のクラウド社会ではもう十分ではないのです。
ネットワーク全体を制御することができない今、どうしたらもっとシンプルな方法で、企業ネットワークのセキュリティを守ることができるでしょうか?
その答えこそが、Zscalerが提供しているクラウド・セキュリティです。
このエントリでは、Zscalerがどんな事業を展開しているのか整理した上で、同社の決算数値についても見ていきたいと思います。
Zscalerは、新しいクラウド社会では、セキュリティについての全く新しいアプローチが必要であるとしています。
そのアプローチとは、「ネットワークがセキュリティを定義するのではなく、接続する対象(アプリやサービス)をソフトウェアで定義する」というもの。
つまり、ネットワークごとにつなぐ・つながないを決めるんではなく、アプリケーションごとにつなぐ・つながないを決めるということ。
言われてみれば、とてもシンプルな解決策です。
そして、これを可能にするソフトウェアを提供しているのがZscaler。
ネットワークを隔てる囲いやそれに穴を開けるゲートウェイに頼るのではなく、どのデバイスがどのサービス・アプリに接続できるのかをZscalerのプラットフォーム上に定義。
「ネットワークを守るんじゃない、ユーザーとアプリを一つ一つ守る必要があるんだ」と言っています。
そして、そのための具体的な製品として、Zscalerでは「Zscaler Internet Access」「Zscaler Private Access」の大きく二つを提供しています。
Zscaler Internet Accessは、ユーザーとインターネットの間をつなぐクラウドセキュリティ管理ツールです。
「Zscaler Internet Access」を社内ネットワークとインターネットをつなぐ既定ルートとしておくことで、全てのユーザーにいつでもどこでも同じセキュリティを提供することができます。
「Zscaler Internet Access」は、ユーザーとインターネットの間に鎮座し、全てのトラフィックをチェック。ルールにないデータが流れることを防ぎます。
「鎮座」とは言ってもZscaler Internet Accessはクラウド上のサービスであり、その中でURLは帯域コントロール、アンチウイルスなどの設定を行うことができます。
一方、「Zscaler Private Access」の方は、外部のクラウドサービスと社内のシステムがやりとりする場合のルールを定義します。
ユーザーが外部システムへの接続をリクエストすると、「Zscaler Private Access」がアクセスして良いかをチェックし、もし可能であれば、外部システムへのアクセスを許可します。
そうすることによって、外部者をネットワーク内に丸ごと入れることなく、必要なデータだけにアクセスさせることができます。
具体的なユースケースとしては、M&Aの内部監査や、提携先とのシステム連携などがあるとのこと。
続いて、Zscalerの事業数値を追えるだけ拾ってみます。
全体の業績
2015/1期の売上高は5370万7000ドルでしたが、2017/1期には1億2571万7000ドルにまで増加。
損益はまだまだ赤字です。
契約形態別の内訳
売上1億2572万ドルのうち、直接販売は1482万ドルのみで、残り1億1090万ドルは「Channel partners」経由となっています。
各国の通信キャリアやSIerなどが販売パートナーとなっているようです。
イギリスの大手通信キャリア「BTテレコム」や「ドイツ・テレコム」「ベライゾン」などの名前があります。
国ごとの売上
アメリカでの売上は5700万ドルと、全体の半分に満たず、EMEA(欧州、中東、アフリカ)地域の売上が5686万ドルと同じくらいあります。
リテンション・レート
売上ベースのリテンション・レートは115%と驚異的な値です。
要するに既存顧客の解約率よりもアップセル(単価上昇)の方が大きいということです。
確かに、会社のネットワークなんか変えられた日にゃ抜け出すことは難しそう。
顧客についての情報
顧客の数は具体的には公表されていないようですが、 2,800社を超える顧客がおり、「フォーブズ・グローバル2000」のうち200社が利用しているとのこと。
その中には航空会社や鉄道会社、コングロマリットや消費財、小売、金融、ヘルスケア、製造業、メディア、通信会社などの大企業が含まれているとのこと。
さらに、世界三大コングロマリット全てと、7大飲料メーカーのうちの5社、4大石油ガス会社のうちの3社、4大アパレル企業のうちの2社、12大食品企業のうちの6社が導入しているそうです。
バランスシート
総資産は1億8290万ドルあり、そのうち現金同等物が8798万ドルと、かなりキャッシュリッチな状態。
負債と自己資本の項目を見ると、転換優先株(Redeemable convertible preferred stock)として2億ドルを計上。
累計損失は1億6202万ドルほどです。
キャッシュフロー
キャッシュフローは上場したての会社だなあという感じではありますが、営業キャッシュフローが大きなマイナスになっておらず、かなりトントンに近い水準です。
Zscalerのサービスは、やはり我々素人にとってはとても分かりにくい事業の一つです(自分も一応ソフトウェア・エンジニアですが)。
ただ、一つ重要な点として覚えておきたいのは、「ネットワークを守るのではなく、個々のノード(デバイスやアプリケーション)での設定によりセキュリティを管理する」というZscalerのアプローチです。
テクノロジー業界では「マイクロサービス化」という文脈があり、モノリシックな一カタマリりだったITシステムが、機能ごとに切り分けられて散らばっていくという流れがあります。
Zscalerもネットワークからセキュリティ機能を論理的に分離したということで、マイクロサービス化の文脈に乗っかっていると言えるのではないでしょうか。