中国版アマゾンとも呼ばれるEC企業「JD.com」(ティッカーシンボル: JD)の2018年3Q決算が発表されました。
彼らは「中国最大の小売業者」として中国の小売市場をリードする存在です。
JD.comの売上は創業祭を開催する2Q(4月〜6月)と「独身の日」がある4Q(10月〜12月)に増加する季節性があり、今四半期の売上は1,048億元(1.7兆円)です。
営業損失は7億元(115億円)で、2四半期連続の営業赤字となりました。
対前年の増収率は25.1%で、成長スピードは減速傾向にあります。
CEOがアメリカで逮捕されるという悪いニュースに加え、事業面でも難しい局面を迎えています。
Eコマース事業の現状を把握するために欠かせない流通総額(GMV)を見てみましょう。
今四半期の全体GMVは3,948億元(6.5兆円)で、楽天の約1.7倍という規模です。
2017年までの急速な成長には劣るものの、GMVの成長率は30%を上回る水準で推移しています。
それではなぜJD.comの成長は減速しているのでしょうか。
彼らの収益は本家アマゾンと同様に、自社で仕入販売を行なう「直販」とマーケットプレイス売上手数料などを含む「サービス」で構成されています。
今四半期の直販売上は939億元(1.5兆円)と売上全体の90%を占めています。
サービス売上は109億元(1,787億円)ほど。
売上成長率の推移を見てみると、直販の成長率が22.8%まで低下しています。
JD.comの売上が伸び悩んでいる要因は直販の成長鈍化にあるようです。
一方、マーケットプレイスや物流を含めたその他サービスは50%前後の成長率を維持しています。
2018年9月末時点でマーケットプレイスの出店者数(merchants)は約20万に達したとのこと。
今後もマーケットプレイスの売上が増加していく傾向は続くと思われます。
直販売上の成長が鈍化しているJD.comですが、ユーザー数はどのように推移しているでしょうか。
今四半期のアカウント数は3億520万人。
これまでは右肩上がりの増加を続けていましたが、前四半期から800万近くアカウントが減少してしまいました。
対前年の成長率を見ても増加スピードが低下し続けており、ユーザーの母数は頭打ちになってきたような印象も受けます。
顧客あたりの平均GMVも算出してみます。
1アカウントあたりの平均GMVは1,294元(2万1,215円)で、1か月あたりに換算すると約7,000円という計算となります。
JD.comは2016年に開始したプレミアムプラン「JD Plus」のサービスを拡充しており、2018年9月にユーザー数が1,000万人に達したと発表しました。
(JD Plus)
「JD Plus」は年会費149元(2,442円)から入会できる、アマゾンのプライム会員と似たようなサービスです。
送料が無料になったり限定クーポンを受け取れるなどの特典が用意されています。
中国版Netflixとも呼ばれる「iQIYI」とのプレミアム会員費セット割も行なっており、「JD Plus」ユーザーの契約更新率は約80%にのぼります。
「JD Plus」ユーザーの月間平均購入額はおよそ1,000元(1万6,000円)とのこと。
ユーザー数の伸びが鈍化する中で、JD.comは顧客単価の上昇を目指した施策を強化しています。
JD.comのコスト構造に大きな変動はなく、売上原価率は85%前後で推移しています。
16%ほどある販管費の内訳をチェックしてみます。
物流コストは横ばいに推移しており、7.5%ほど。
開発費(Technology and content)は上昇傾向にあり、今四半期は3.3%となっています。
中国本土の物流網強化を継続しており、倉庫の数は550件以上に。
前四半期から3か月で約30件増加しました。
注目を集める自動倉庫(動画リンク)も全10都市合計15件まで増えています。
バランスシートも確認していきましょう。
総資産2,135.4億元(3.5兆円)に対して現金・金融資産の合計が930.0億元(1.5兆円)と40%以上を占めます。
商品など棚卸資産は398.6億元(6,535億円)ほど。
資産の調達元を確認してみると、株主資本が645.1億元(1.1兆円)となっています。
有利子負債による調達も行なっています。
営業キャッシュフローはプラスで推移しており、9か月間の累計で148.5億元(2,435億円)となっています。
これまで本家アマゾンと同様にフリーキャッシュフローを重視してきたJD.comですが、物流システムなどに積極投資を行なっている影響で9か月間の累計ではマイナスとなっています。
2018年に入ってから株価の下落が続いており、現在の時価総額は302.8億ドルです。
キャッシュ930.0億元と有利子負債183.3億元を考慮した企業価値(EV)は195.2億ドル。
年間の営業キャッシュフローを200億元(28.8億ドル)と見積もった場合6.8年分という評価を受けている計算となります。
成長スピードに陰りが見え始めたJD.comですが、11月11日「独身の日」は大盛況だったようです。
流通総額は1,598億元(2.6兆円)に達し、前年の1,271億元を大幅に上回りました。
生鮮食品の販売量が大幅に増加し、およそ3万トンを売り上げたとのこと。
特に人気だったのはザリガニ(12トン)、肉類(2,800トン以上)、ヨーグルト(200万個)だったようです。
また、消費財の販売店数は4億点を超えました。
2,135億元(3.5兆円)を売り上げたアリババも含め、4Qの決算が非常に楽しみです。
そのほか、JD.comは9月末からタイでの事業展開をスタートしました。
(JD CENTRAL)
タイ・バンコクに拠点を置く「Central Group」と共同でマーケットプレイス「JD CENTRALl」をオープン。
すでに進出済みのインドネシアや出資先のベトナム企業「Tiki」を含め、東南アジア攻略に向けた投資を積極的に行なっています。