今回は、2017年10月にマザーズ市場に上場した「ウェルビー」(証券コード:6556)を取り上げます。
(公式HP)
創業者の大田誠氏は以前、バイオベンチャーでガンの治療法を開発していました。
開発中に末期がんの患者と接する中で、「困っている人を支える事業がやりたい」と思うようになり、2011年にウェルビーを創業します。
障害者の一般企業への就職をサポートする就労移行支援を開始しました。
ウェルビーは就労移行支援では後発企業でしたが、大田社長は人脈や地域ネットワーク作りを重視。
他社はあまり行なわない福祉施設や行政機関への営業活動に注力したことで、数多くの顧客を獲得することに成功したといいます。
過去5年間で業績は急速に拡大しており、18/3期の売上高は43.6億円に。
4年前(14/3月期)の3.1億円と比べると約14倍の規模に成長しています。
経常利益は直近で10.4億円。
経常利益率は23.8%と右肩上がりに上昇しています。
ウェルビーの事業は、「就労移行支援事業」「療育事業」の2つからなっています。
①就労移行支援事業
就労移行支援とは、一般企業で働きたい障害のある方に対して、働くために必要な知識と能力を養うサポートのことです。
ウェルビーでは、まずカウンセリングを行い、利用者の健康やスキルを把握。
その結果に基づき、個別の課題の発見と目標の設定をします。
個々の目標に合わせ、パソコンの訓練やビジネスマナーの習得、基本的な事務作業など個々に必要なスキルのトレーニングを行います。
就職活動時には、履歴書作成のサポートや模擬面接を行っています。
さらには、就職が決まった後も定期的に面談を行い、利用者の不安の解消に努めています。
こうしたきめ細かなサポートによって、就業者数は年々増加しています。
創業から累計で2,080名の障害のある方々の就職を実現しています。
②療育事業
療育とは、障害のある子供の社会的自立を目的とした医療と保育のことです。
ウェルビーは、この療育をメインとした「ハビー」というサービスを展開してます。
発達障害のある未就学児に対して、一人一人の特徴を尊重した指導を行なっています。
臨床心理士や作業療法士などの専門家を自社スタッフとして雇ってます。
これにより、通常の保育園や幼稚園などでは難しい発達障害を持った子供へのきめ細かなサポートを実現しています。
また、障害のある小中高生に対しては、「ハビープラス」という支援サービスを展開。
放課後や休日に、学校の授業のサポートに加え、コミニケーションスキルやライフスキルを向上させるためのサポートをしています。
ウェルビーは就労支援サービスにおいて、年収が300万以下の人からは一切料金を徴収していません。
それではどのように収益をあげているのかというと、彼らは行政から就業支援報酬を受け取っています。
ウェルビーのサービス利用者は行政に医療費を申請し、受給者証が交付されます。
サービス提供後、ウェルビーが行政に報酬を請求することで支払が行われる流れとなっています。
就労移行支援を行うと一人につき、一定額の基本報酬が支払われます。
さらに、就労支援を行なった人が6ヶ月以上、その企業で働き続けた場合、追加の報酬(就労定着支援体制加算)が支払われます。
つまり、6ヶ月以上の定着者をコンスタントに出すことが求められています。
サービス利用者の就職して半年の定着率は、年々増加。
2018年3月期には、87%を記録しています。
ここでセグメント別の売上を見てみます。
就労移行事業は38.1億円、療育事業は5.6億円といずれのセグメントも大幅に増収しています。
ウェルビーはここ数年で急速に拠点数を拡大しており、2018年3月末時点で合計82拠点に達しました。
全82拠点のうち「就労移行支援」事業所の数は63拠点。
また、16/3期には2教室だった「療育」事業の教室数も、2018年3月末時点で19教室にまで増加しています。
これだけのスピードでウェルビーが拠点数を増やしている背景には、企業による障害者の雇用数が増加しているという社会環境の変化があります。
障害者の雇用者数は14年連続で増加し、平年29年には49万人に到達しました。
民間企業による障害者の雇用数が増えたことで、就労移行支援を利用して、民間企業に就職する障害者が増加。
これにより、就労移行のサービスの利用者数が増加しています。
ウェルビーのコスト構造を確認してみると、売上原価率が60%を上回っています。
売上原価のうち40%が人件費となっており、18/3期には0.8ポイント増加しています。
これは拠点数の増加に加えて、賞与制度の創設や資格手当を拡充したためです。
財政状態について見てみます。
現預金が15.9億円あり、資産全体の52.0%を占めています。
一方、利益剰余金は11.8億円あり、負債・純資産全体の38.6%を占めています。
営業キャッシュフローは2期連続でプラス。
財務キャッシュフローはIPOに伴って4.5億円のプラスになっています。
2017年10月の上場から株価は上昇傾向にあり、現在の時価総額は505.9億円です。
現預金を考慮した企業価値(EV)は490.0億円。
年間フリーキャッシュフロー3.8億円に対して、128.9年分の評価を受けています。
ウェルビーの19/3期業績予想と上半期時点の進捗状況を確認してみます。
通期の売上予想55.7億円(+27.5%)に対し、2Q時点での進捗率は51.2%となっています。
また、営業利益も2018年3月期と比べ、2.9億円増え、13.0億円になる見通しです。
療育事業では、新たに6教室を開設し、計25教室になる予定です。
これにより利用者数が順調に増加。
4.7億円の売上増加を見込んでいます。
就労移行事業では、新たに7つの事業所の開設を予定。
加えて、既存の事業所の稼働率の向上と維持に努めることで利用者数は順調に増加するようです。
その結果、就労移行支援事業の売上は、7.2億円の増加を見込んでいます。
ウェルビーの事業を取り巻くマクロ環境にも変化が起こっています。
政府は2018年4月から精神障害者の雇用を義務化しました。
これに伴い、政府は民間企業の障害者の法定雇用率を2.0%から2.2%に引き上げました。
この法改正の裏側には、障害者の雇用を促進させる意図があります。
厚生労働省によると、現在、日本には約936.6万人の障害者がおり、これは人口の約7.4%に相当します。この内65歳未満の割合は48%で、約449.5万人です。
もし障害者の法定雇用率が0.1%上がると、働く障害者の数は2万5000人増加します。
また、平成30年4月に障害者福祉サービスを行う企業に対する報酬が改定されました。
既存の制度では、障害者に対する就職後のサポートが十分ではありませんでした。
そこで、より長期に渡って障害者をサポートをするため、政府は「就労定着支援サービス」を新設。
これに伴い、報酬制度も改正され、既存の制度に比べ、就労した障害者の定着率がより報酬に反映されるようになりました。
報酬制度の改正を受け、ウェルビーは2018年10月から就労定着支援サービスを開始する予定です。
医療機関や行政機関と連携を取りながら、障害者の継続した就労をサポートしていくようです。
参照