Avalaraは、アメリカにおける消費税(VAT)の計算や支払い、申請書作成等のサービスをクラウドで提供するシアトルの企業です。
2018年6月15日に上場したばかりですが、公開からわずか1週間で株価が約40%も上昇し、今最も注目されている企業の一つです。
(ホームページより)
現在Avalara CEOのScott McFarlane氏は、2004年にAvalaraを創業しました。
日本で消費税の計算というととても簡単で、商品価格の8%ですよね。
ではなぜこのような消費税に関わるサービスがヒットしているのでしょうか。
実はアメリカは日本のように全国一律で消費税が設定されてなく、なんと、アメリカでは州の数より圧倒的に多い12,000以上の地域がそれぞれ税率を設定しています。
これらの各地域は今まで、実店舗での売上のみに消費税等の間接税を課税していたため、イーコマースの発展とともに地域での税収が減ってしまいました。
そこで、多くの地域が現在、それぞれの地域における会社の売上額や会社の営業活動の有無など多岐に渡る課税条件を設定し、課税の有無を決定しています。
課税条件が地域によって異なる上、毎年法律が更新されているため、多くの企業はネット通販をするためにとても多くの人員と時間を割いて間接税への対応を行なっています。
そして、Scott McFarlane氏は全ての事業が「正しく税の支払いを行う (“Tax compliance done right”)」ことができるようなサービスを開始するべく、Avalaraを創業しました。
このようなサービスを提供しているAvalaraですが、事業は過去2年間で急成長しています。
売上高は過去2年間で1.23億ドル(2015年)から2.13億ドル(2017年)まで73%の増収を達成しています。
一方、営業損失が出ており、2017年度は約6400万ドルの営業赤字となっています。
なぜこのような構造になっているのか理解するため、まずはAvalaraのサービスを詳しく見ましょう。
Avalaraは、中小企業から大企業まで多くの企業に対し、「正しく税の支払いを行う」ための様々なサービスを提供しています。
現在、大きく分けて3つのサービス(消費税の有無判別・税額の計算、間接税の申告支援、申告書の管理)を提供しています。
ここでは特に企業の問題解決の手助けになっている、初めの2つのサービスについて見ていきたいと思います。
① 消費税の有無判別&税額の計算サービス
Avalara AvaTaxは、サービス利用者の事業形態や売上データ、POSなどからアメリカ各地域における課税の有無をリアルタイムで判別してくれます。
すでにサービス利用者が使っているビジネスアプリケーションにも対応しており、売上記録などから消費税の計算を行います。
さらに、取引に課税が必要と判別された場合、すぐに請求書に反映させ、消費者に正しく請求することができるます。
(ホームページ)
② 間接税の申告支援サービス
Avalara Returnは、消費税含む間接税の申告書作成支援を、各地域における提出期限に間に合うよう行っています。
また、サービス利用者の設定する特定の地域のみ支援を行うなど、サービス利用者がオーナーシップを持って申告書作成を行うことができます。
(ホームページ)
過去2年間に73%の売上成長率を達成したAvalaraですが、なぜ約6400万ドルもの営業赤字になっているのでしょうか。費用の内訳を調べてみましょう。
上記グラフから分かるよう、Avalaraは現在セールスおよびマーケティング活動に多額資金を投入しています。
現在、Avalaraはこのようにして多くの新規顧客獲得に力を入れており、それにより、現在の高成長率を達成しているのです。
実際、ここ2年で顧客数が約37%増加しています(下図参照)。
直近では7,760社に達しています。
また、Avalaraの上場時に米国証券取引委員会へ提出した資料によると、直近4四半期(2017年度第2四半期〜2017年度第1四半期)の平均売上保持率(Net revenue retention rate)が107%となっています。
つまり、Avalaraの顧客の多くがAvalaraを使用し続けているだけでなく、顧客企業の消費者との取引回数が増加をしているということになります。
これはAvalaraは成長を続ける優良企業が顧客であることを示しています。
仮に新規客獲得への努力を最小化した場合、サービスの研究開発等を継続的に行うことで、黒字決算で安定的に成長していくことが予測できます。
次に、Avalaraの財政状況について考察します。
資産をみると、総資産に対するのれん(Goodwill)の割合が大きいことがわかります。
現在、Avalaraは米国だけでなく、欧州における消費税(VAT)やブラジルにおける取引税、関税に対応し、顧客ベースを拡大するべく、これらに関係する企業の買収を積極的に行っています。
そのため、この先も継続して多額ののれんを保有すると考えられます。
負債、自己資本についても見てみましょう。
赤字が続いているため、累計損失(Accumulated deficit)が4.27億ドルまでに拡大しています。
この赤字を補填しているのが、普通株転換可能優先株(Total convertible preferred stock)3.71億ドルと追加払込資本(Additional paid-in capital)1.92億ドルです。
最後にキャッシュフローを調べます。
事業からの収益を示す営業キャッシュフローは3期連続マイナスながら、急成長を遂げたことで改善傾向にあります。
事業の債権者および株主への利益をしめるフリーキャッシュフローも3期連続マイナスですが、こちらも改善傾向にあります。
最後に市場における評価を見ます。
(Google)
IPOが6月15日でしたが、1週間ほどで約40%も株価が上昇しました。時価総額は33億ドル。
売上は2億ドル程度でなおかつ赤字ながら、市場がこのビジネスの将来を高く評価していることがわかります。
これまで見てきたように、現在急成長を遂げているAvalaraですが、今後も継続して事業の成長が見込まれます。
大きく2つの要因があるのですが、それぞれの要因を分析していきたいと思います。
①イーコマース市場の成長
Avalaraのサービスが特に浸透しているアメリカのイーコマース市場ですが、今後も成長が見込まれています(下図参照)。
この市場における取引額が大きくなるに伴い、より多くの事業の消費税支払い構造が複雑化すると考えられます。
また、アメリカの各地域は多くの税収を確保するため、今後も新たなルールの導入やルールの変更を検討しています。
12,000以上の地域におけるより複雑化する消費税支払いを正しく行うことのできる企業はごく限られた一部の大企業となります。
今後、このような状況に対処するため、より多くの事業主がAvalaraのようなサービス導入を決意すると予測されます。
同様に、Statistaによると、現在Avalaraが参入しているアメリカ国外の国と地域(EU、ブラジル、インド)でのイーコマース市場も今後成長が予測されており、Avalaraの成長機会もとても大きいと考えられます。
(Statista)
Avalaraの利用料金プランは非公開ながら、処理する金額に応じた料金体系(主に定期課金)となっているため、イーコマースの規模拡大がそのまま収益機会へとつながります。
②アメリカにおける輸出入の増加
アメリカの輸出入するコモディティの額は増加傾向にあります(下図参照 黒棒輸出 灰棒輸入)。
今後もこの増加傾向は継続することが予測されており、イーコマースの全世界的発展と合わせて考えると、今までアメリカでの取引経験のない企業がより多くアメリカへの輸出を行うと考えられます。
このような企業が突然複雑なアメリカでの消費税対策をすることは難しいと考えられるため、現在Avalaraが進出してない日本のような国々でも、潜在顧客が多くいると考えられます。
(Statista)
以上の成長機会を逃さず、顧客基盤を拡大するため、しばらくはセールスおよびマーケティングに多額の資金を投入すると思われます。
直近の政治状況を鑑みると、関税にAvalaraが対応している点もとても高く評価できます。
今後より複雑化する消費税・間接税への対応をとても簡単にするAvalara。
どれだけ今後も成長を続けることができるか、注目に値するビジネスであることには間違いありません。