ウォーレン・バフェット翁が2005年の報告書の中でまたしても興味深い話をしていたのでまとめます。
テーマは「どうやったら投資リターンを最小化できるか」です。彼らしいシニカルなユーモアを存分に盛り込んだ内容となっています。
ざっくりサマリーを書くと、次のようなことです。
・20世紀の100年間で、ダウ平均は66ドルから1万1497ドルまで上昇した
・その理由は純粋に、米国のビジネスが右肩上がりの成長を続けたからである
・本来、米国のビジネス全体のリターンと米国の投資家全体が受け取るリターンの合計は一致するはず
・しかし、実際には米国の投資家は「摩擦コスト」と言われるものを支払っている
・それは、米国内の他の投資家よりも良いリターンを生み出そうとして、ファンドマネジャーやコンサルタントなどの専門家に業務を委託しているからである
・その結果、米国の投資家たちの累計リターンは、ただ座って待ってれば得られていたリターンの8割程度しか得られていない
上のようなことを仮想の一家「ガットロックス家」という例を出しておとぎ話のような感じで説明されています。
バークシャーと他の米国株オーナーたちが長い間繁栄するのは容易なことだった。1899年12月31日から1999年12月31日までの間で、かなり長期の例だが、ダウは66から11497まで上昇した(この結果をもたらすのに必要な年次成長率は幾つでしょう?驚くべき答えはこの章の終わりに)。この巨大な上昇の理由はシンプルだ:100年もの間、米国の事業たちはとても好調で、投資家たちは彼らの繁栄の波に乗ったのだ。事業たちは引き続き好調だ。しかし今日の投資家たちは、自ら招いた傷を通じて、彼らの投資から得るリターンを削る道を進んでいる。
これがどのようにして起こるかの説明は基礎的な真実から始まる:債権者によって生み出される損失による破産など、重要でない例外はあるが、株主たちが今現在と「審判の日」の間に、累計で得られる収益の合計は、彼らが所有するビジネスが生み出す累計リターンに等しい。確かに、賢くあるいは幸運な形で買ったり売ったりすることで、投資家Aは投資家Bが失った分の分け前を多く得られるかもしれない。もしある投資家が高く売ったら、別の投資家が高く買わなければならない。オーナー全体として、そこには何のマジックもない。外側からお金が注ぎ込まれると言うことはなく、企業自身が生み出したよりも多くの富を引き出すことはできないのだ。
実際、オーナーたちは「摩擦」コストのおかげでビジネス自体が生み出すよりも少ない稼ぎしか得られない。そしてそれこそが私が強調したい点だ。これらのコストは今や累積してきており、株主たちが歴史的に生み出してきた稼ぎをはるかに少なくしてしまう。
この料金がどのように膨らんできたかを理解するために、全ての米国企業が、常に一つのファミリーによって所有されているケースを想像してみてくれ。そのファミリーを「ガットロックス」と呼ぼう。配当金の税金を支払った後、このファミリーは、世代を通じて、所有する企業の稼ぎの累計分、より裕福になっていく。自然、ファミリーはこれらのお金の一部を消費する。しかし、利益として残る部分は着実に積み上がっていく。ガットロックス家では誰もが同じペースで富み、全ては調和している。
しかし、何人かの口の達者なヘルパーたちがファミリーメンバーたちに親戚同士でお互いの持分を売買するようにけしかけたらどうなるだろう。そのヘルパーたちは、もちろん料金をとって、親切にこれらの取引を処理することに同意する。ゴットロックス家はまだ「アメリカ」と言う企業体の全てを所有しており、取引は誰がそれを所有するかを組み変えるだけだ。だから、ファミリーが年あたりに得られる富は、アメリカ事業全体の稼ぎから、支払った手数料の分だけ消えていくことになる。ファミリーメンバーがより多く取引すればする分だけ、パイ全体の分け前が小さくなり、ヘルパーたちがより多くの切れ端を受け取る。事実、ブローカー・ヘルパーからは失われない。動きがあることは彼らにとって良いことであり、多様な方法を使って、彼らはそれを強く勧める。
しばらくして、ファミリーメンバーのほとんどがこの新しい「兄弟を負かす」ゲームであまり良い結果を得ていないことに気づく。別のヘルパーたちが入ってくる。これらの新人たちは、ガットロックス一族のそれぞれに対して自分だけではファミリーの他全てを負かすことはできない、と説明する。解決策として「管理者を雇いなさい、そう、私たちだ。そしてプロの仕事としてやってしまいましょう」と勧める。これらの管理者ヘルパーたちはブローカー・ヘルパーたちを取引を実行するのに使う。管理者たちはむしろ取引の回数をさらに増やし、ブローカーたちがより栄えるようになる。結果として、パイのより大きな切れ端が二つの階層のヘルパーたちに行き渡る。
ファミリーの失望は大きくなる。今度はメンバーのそれぞれがプロを雇うようになる。しかし全体として、グループ全体の財務状況はさらに悪くなる。解決策?もっと助けを求めるんだ、もちろん。
それはフィナンシャル・プランナーや企業コンサルタントとして訪れ、ゴットロックスが管理者ヘルパーたちを選ぶのをアドバイスする。混乱したファミリーやこの助けを歓迎する。ここまで、メンバーたちは正しい株を選ぶ方法も正しい株選別人を選ぶ方法のどちらも知らない。どうして、誰かが尋ねるだろう、彼らが正しいコンサルタントを選ぶことができると思うのだろう?しかしこの質問はゴットロックスでは起こらず、コンサルタント・ヘルパーたちはそれを彼らに勧めることはしない。
ゴットロックス家は、今や3つの階層の高額ヘルパーたちを雇っており、結果がさらに悪くなるのを知り、絶望に沈む。しかし希望が失われると、4つ目のグループ、それをハイパー・ヘルパーと呼ぼう、が現れる。これらの愛想の良い奴らはゴットロックスに対し、この満足できない結果は既存のヘルパーたち、ブローカー、マネージャー、コンサルタントたち、が十分にやる気がなく、単純に行動しているだけだからだ、と説明する。「何をそんなゾンビどもから期待できるのか?」と新しいヘルパーたちは尋ねる。
新しくきた人たちは息を呑むほどシンプルな解決策を提示する。「もっと多くのお金を払え」。自信に溢れ、ハイパー・ヘルパーたちは固定料金に加え、巨額の支払いを行うことが、他の家族たちを真に出し抜くためには必要なことだと主張する。
ファミリーの中で観察力のあるメンバーたちが一部のハイパーヘルパーたちは本当はただ「ヘッジファンド」や「プライベート・エクイティ」などのセクシーな名前が縫い付けられている新しい制服を着た管理者ヘルパーに過ぎないことに気づく。新しいヘルパーたちは、しかしながら、ゴットロックスたちに制服を変えることは全て重要なことであり、着る人に穏やかなクラーク・ケントがスーパーマンのコスチュームに変わった時のような不思議な力を授けると言う。この説明に納得して、ファミリーはもっと支払うことを決める。
そして、それこそが我々が今いる世界だ。ただロッキング・チェアにみんな座っているだけだったならば、所有者に全て行くはずの稼ぎのうちの記録的な割合が、今や雄叫びをあげるヘルパーたちの軍隊のところに行っている。特に高額なのは、彼らが賢かったり幸運だった時に勝った分のうちの大きな部分をヘルパーたちが受け取り、彼らが愚かだったり不幸だったり(時折盗まれる)する場合に、ファミリーメンバーたちが損失の全てを被り、巨額の管理報酬は固定、という最近の利益分配の仕組みが広がっていることである。
このような巨額の分配、ヘルパーが勝った時の多くをとることから、ガットロックスが特権により損したり支払ったりすることまで、それらによってそのファミリーを「ハドロックス」と呼んだ方が正確かもしれない(訳注:「かつて持っていた者たち」ということだろうか)。今日、実際にファミリーの摩擦コストを合計するとゆうにアメリカ事業全体の稼ぎの20%には達しているだろう。言葉を変えれば、ヘルパーへの支払いの重荷こそがアメリカの株式投資家たちが、全体として、ただ座って誰の意見も聞かなければ得られた稼ぎの80%しか得られていないことになっているかもしれない。
だいぶ昔のことだが、アイザック・ニュートン閣下は運動三法則を考え出し、それは天才の所業であった。しかしアイザック閣下の才能は投資には及ばなかった。彼は南海バブル事件でかなりの資産を失い、のちに「私は星の動きを計算することはできるが、人間の狂気を計算することはできない」と説明している。もし彼がこの損失に傷ついていなかったら、アイザック閣下は運動法則の4つ目を発見していたかもしれない:「投資家全体として、運動の回数が増えるほど、リターンは減少する」
こちらがこの章の冒頭に書いたクイズの答えだ:かなり具体的に言うと、ダウは20世紀に65.73から1万1497.12に増大し、それによる年間累計リターンは5.3%となる(投資家たちはもちろん配当も受け取っただろう)。同じだけの割合のリターンを21世紀に達成するには、ダウは2099年12月31日までに。どれだけ上がる必要があるだろうか。覚悟して聞けよ。正確に、201万1011.23である。しかし私は200万で落ち着けば満足だ。今世紀に入っての6年間、ダウは全く上昇していない。
訳注:実際にはこの2005年の後、ダウ平均は引き続き大きく成長しています。