電子書籍のディストリビューションを手掛けるメディアドゥが好調だ。10月13日に発表した上期決算では最終損益が9.1億円、前年比88%もの増益となった。
四半期業績をみても、その成長性の高さがうかがえる。売上高はほぼ右肩上がりの拡大を続け、2020年6〜8月期には214億円(前年比31%増)、営業利益も8億円(同62%増)に拡大した。
新型コロナによる外出自粛や在宅勤務の広がりは可処分時間を増大し、「巣篭もり需要」としてデジタルエンターテインメントの追い風となった。
電子書籍市場の拡大も想定を上回る推移となり、世界でも第二位、Amazonにつぐシェアを誇る流通事業者、メディアドゥの業績を大きく押し上げた。
今回は、メディアドゥという会社がどのようにできたのか、その成り立ちやビジネスモデル、成長戦略までじっくり確認していこう。
メディアドゥが主軸とする電子書籍流通事業は、出版社と電子書店の間を橋渡しする「取次」の役割を果たす。参入の起点になったのは、意外にも「着うた」事業だ。
現在もCEOを務める藤田恭嗣氏は1994年、大学時代に携帯電話販売業で起業した。2004年に着うた配信サービスを開始し、デジタルコンテンツ配信の世界に足を踏み入れる。
かつて日本には「着うた」というガラケー専用音楽配信産業があった。先にあったのは「着メロ」で、着信時に鳴る音楽をカスタマイズできるという、今思えば不思議な機能だった。
「着うた」は「着メロ」とは根本的に異なるビジネスだ。「着メロ」はメロディだけなので、JASRACに金を払えば誰でも参入できる。しかし、「着うた」はアーティストやレーベルから直接、許諾を受けなければならない。
着うた事業を育てる過程で構築したのが、アーティストやレーベルとの人的なネットワークと、コンテンツを管理するためのシステムだ。権利保有者に料金を支払うためには、コンテンツがどれだけ売れたかを報告しなければならない。
しかし、藤田氏は着うたの世界で勝つことはできなかった。ニッチ(レゲエとヒップホップ)に特化することで年商20億円まで伸びたが、それでもシェアは数%程度に過ぎない。
そこで2006年に進出したのが電子書籍の配信だ。AmazonによるKindle発売(2007年)よりも早い。当時この領域では大きなプレイヤーがおらず、藤田氏は「マーケットシェアをとること」だけを考えて事業を立ち上げた。
ここで生きたのが、着うた事業を手掛ける中で培ったノウハウだ。独自のコンテンツ配信システム「md-dc」を開発し、プラットフォームとして「流通」のポジションを狙った。
電子書籍流通事業は、出版社と電子書店の間を結ぶ2サイド型プラットフォームだ。メルカリやAirbnbなどもそうであるように、何より重要なのは市場シェアである。
しかし2012年、メディアドゥの前に強敵が現れる。官民ファンドの産業革新機構が出資して立ち上げられた電子書籍取次会社「出版デジタル機構」だ。